朝、マッチは悪夢で目が覚めた。叫びだしそうな自分の口を手の平で押さえて、ベッドから飛び出し、ドアを開けて走り出した。やっぱりダメだ。僕はハナビと一緒にいられない。おじさんを助けなきゃ。おじさんと一緒にいないと…。マッチの横を風が走り抜け、前にハナビが立っていた。
「は、はー!俺の勝ち!お前、遅すぎるぞ」
どうしよう。僕はどうしたらいいんだろ…。
「よし、一緒に走ろう。一時間走だ。ゆっくり走ってやるから、ついてこい」
ハナビは走り出すが、マッチがついてこないのですぐに戻ってくる。足踏みをしながら、
「あのおっさんを助けたかったら、まず自分を鍛えろ。甘えてんじゃねえぞ」
ハナビはマッチの手首をつかんで走りだし、やがて走りながら手を離して、
「ぼっとしてるんじゃない。周りをよく見ろ。あんなバケモノみたいなやつらとどう戦うつもりだ。お前はまだ子供だ。走りながら、隠れる場所を探せ。自分の行動範囲のすべてを頭に叩き込むんだ。逃げたり隠れたりすることを恥じる必要はない。自分の身を守れない奴は人を救えない。ち、ポリスだ」
遠くにポリスを見つけたハナビはマッチを抱えて横っ飛びに物陰へ飛び込み、しばらく身動き一つしなかった。通りを覗き見て、
「行ったようだな。俺たちの通りにまで来やがるとは。お前を探してるのかもしんねえな。奴等はチップをチェックする装置をつけてる。こういうときにチップをつけてないお前はバレバレだ。お前用のチップ作ってやるよ」
マッチはびっくりして、首を横に降る。ハナビは笑いながら、
「安心しろ。頭に入れたりしないよ。持ち歩いてりゃいいんだ。普段は持っていて、追われたときは居場所が分からないように捨てちまえ。さ、走るぞ」
一時間走を終えてハナビの部屋に戻ってきた二人。ヘトヘトになって、大きく息をしているマッチに比べ、ハナビは体力が有り余っている。
「こら!座るんじゃない!筋肉がびっくりするじゃないか。順番が逆になっちまったけど、筋トレやるぞ。まずは腕立て伏せ100回だ。いーち、にー…おいおい、てんでだめなのかよ。膝ついてでいいから、ガンバレ」
ハナビ、体を鍛えてもどうしようもないことがあるよ。ハナビは、その時どうするの?この世にはとても恐ろしい…。
「ったくもう、何さぼってんだ!」
マッチは臆せず、まっすぐにハナビの目を見る。
「体を鍛えても意味がないとでも言いたいのか?鍛えてもあいつらを越えることはできないからな。力で勝てないから俺がお前たちUAHの力に頼りたがってるって。ふざけんじゃねえ!お前らがいなくたって、俺は戦って、勝つ!戦い方にも色々ある。だが、どんな戦い方をするにしても体と頭は鍛えておくべきなんだ。シャワーでも浴びてろ。俺は筋トレを続ける」
僕は遠慮なくシャワーを浴びた。さっぱりして出てくると、ハナビはまだ筋トレをしていた。あちこちの筋肉を順番に鍛えている。でも、あいつらに比べたら…。僕はベッドに座り、ハナビの筋トレをじっと見ていた。
「じゃ、俺もシャワー浴びる。朝飯食ったら、面白いもの見せに連れて行ってやるよ」
ハナビがシャワーを浴びている間、僕はおじさんを助ける方法を考えていた。おじさんの近くまで行けば、僕の力でおじさんを助けることが出きるはずだ。おじさんはひどく怒るかもしれないけど…。ハナビにおじさんの近くまで連れて行ってもらえばいい。そこでハナビと別れればいいんだ。どうせ僕等はいつまでも一緒にいられる訳じゃない。ハナビはシャワーから出てくると、外に出て自分で作っている野菜を持って戻ってきた。野菜を水で洗い、皿に盛ってテーブルに置いた。
「さ、食うぞ」
ハナビは野菜をバリバリと食べ始めた。マッチもハナビを真似て野菜を食べる。ハナビはそんなマッチを嬉しそうに見ながら食べつづける。すぐに野菜はなくなってしまった。ハナビは冷蔵庫から肉の小さな塊を取り出してマッチに投げ渡す。
「干し肉だ。食え。筋トレしてないから、それだけ食えば充分だ」
ハナビは干し肉を食べようとはせずに、干し肉にむしゃぶりつくマッチを見ている。
「食い終わったら出かけるぞ。さっき言った面白いものを見せてやる。それを見てお前はお前の戦い方を考えてみろ」
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