ハナビが転がり込んできたけたたましい音に、表で肉まんを売っていた男がキッチンへ入ってきた。
「ハナビか」
「頼む、かくまってくれ」
「やだなぁ。お前に関わるとろくなことがないんだよな」
「そう言わずに頼む!」
ハナビは両手を合わせて男を拝んだ。
「おーい、早く肉まんをくれ」
表から客の声がした。
「はーい、今すぐ!(声を潜めて)静かにしてろよ、ハナビ」
「凄い音だったけど、どうだった?」
「棚が壊れて、がっしゃんですよ」
「そうか、そりゃ災難だな」
表を気にしながらハナビは蒸篭から肉まんを取り出して少年に渡したが、少年はハナビを見たまま食べようとしない。
「いいから食べろ。腹減ってんだろ?」
たくよう、可愛くないくそガキだ。
ハナビは蒸篭からもうひとつ肉まんを取り出して食べ始める。美味しそうに食べているハナビを見て、少年も肉まんを食べ始める。ハナビはテーブルの上から大きな急須と茶碗を二つとって、少年と自分の間に置いた。二つの茶碗にウーロン茶を注ぎ、そのうちの一つをぐいっと飲み干した。少年も肉まんを食べながらウーロン茶を飲み始めた。
「どうだ、うまいだろ、ここの肉まん。にしても、ひょろひょろだなお前。何歳だ?」
少年は答えようとしない。
「十歳ってとこか…お前パイロキネシスを持ってるんだろ。パイロキネシスって分かるか?火を発生させる能力だよ。パイロキネシス持ってんだったら、俺と相性がいい。舎弟にしてやるよ。仲間だ」
ハナビが握手しようとして少年の手を握ると、少年はすっと手を引いてしまった。
「俺を信用しろ。お前がUAHだとしても、差し出したりしないから。あのおっさんはお前の親父か?」
少年がびくっとした。
「おっさんが俺たちをテレポートさせたんだろ?おっさんは自分もテレポートできんのか?」
ハナビは額と額がくっつくほど少年に顔を近づけ、目を覗き込む。少年の目が悲しげに揺れる。
「そっか。できないんだな。じゃあ、捕まってるぞ、あのおっさん」
少年はうつむいたまま何もしゃべろうとはしない。
「助けてやるよ」
少年は驚いてハナビを見つめる。
「あのおっさんが望むんだったらな。今までご主人様の側にいなかったってことは、逃げたいに決まってるか…」
少年の目に涙がにじむ。
「大丈夫だ。俺とお前で助けよう。俺のことはハナビって呼べ」
少年は涙を流しながらじっとハナビを見ている。
「しゃべれないのか?まあいいや。しゃべりたくなったら、しゃべれ。UAHは変な奴が多いからな。お前はパイロキネシスを持ってるからマッチと呼ぶぞ。いいな?」
「また、勝手に肉まん食ったな!」
ハナビの後ろに男が腕を組んで仁王立ちしている。
「わりい、ニクマン。こいつ、すんげ腹減ってたから」
「じゃあ、なんでお前まで食うんだよ」
「そりゃ、お前…うまいからだよ」
ハナビとニクマンは笑いあう。
「貸しだぞ」
「わかってるよ。どうだ、まだ俺たちのこと探してるか?」
「何やったんだか知らないけど、大騒ぎだぞ。そのうち、ここにも調べに来る。頼むから、さっさと出てってくれ」
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