狭い部屋がいろいろなものでいっぱいになっている。使えるのかどうか分からないような家電製品が積まれ、金庫やら健康器具のような用途不明なもので溢れ、作業台の上にはパーツや工具が転がっている。辛うじて、ベッドとテーブル、ソファが人がここが人の住んでいる場所であることを示している。
ハナビがマッチを連れて部屋に入ってくる。
「どうだー!ここが俺の住処だ」
マッチは顔をしかめる。
「待ってな。いいもの見せてやるから」
ハナビは金庫からスタンガンのようなものを取り出すと、側部のキーを操作し、こめかみに当てる。ニヤッと笑って引き金を引いた瞬間、バタッと倒れる。マッチは慌ててハナビに駆け寄り、おろおろしている。
「へーい、驚いたかい?」
立ち上がったハナビの胸を叩きつづけるマッチ。
「参った、参った。俺が悪かったよ。許してくれ」
ハナビは叩き疲れたマッチをソファに座らせ、その横に座った。
「俺はA1484872に変わったんだ。こいつは俺が作った装置で、頭に埋め込まれているチップの情報を書き換える。お前と出くわしたのが仕事中だった。仕事を放り投げている俺が疑われて指名手配になっているはずだから、書き換えたんだ。お前のも書き換えてやろうか」
ハナビがマッチのこめかみに装置を当てようとすると、マッチは屈み込む。
「大丈夫だって、さっきのは冗談で、痛くもかゆくもないんだから。ほら」
ハナビはマッチのこめかみに装置を当てると、装置のディスプレイに「No RFID」と表示された。
「どういうこった!?お前、自分の番号知ってるか?」
マッチは首を横に振った。
「お前、頭にチップがないのか!?」
マッチは頷いた。
「どうして!?妊娠すりゃあチップでばれて、出産施設送りだ。施設で赤ん坊は育てられて、チップを埋め込まれる。チップがある限り、位置はバレバレだし、生存だって確認できる。…手術の後はないし…地下組織の連中なのか?」
マッチは首を横に振る。
「そうだよな。地下組織の連中がお前みたいな子供をふらふらと街中歩かせてる訳ないよな」
ハナビはマッチとじっと見つめ合う。
「そうか、あのおっさんか。トランスポートの能力をそこまでコントロール出来るのか…神の手だな。昔から病気を直す神の手を持つ者がいた。お前のようなパイロキネシスもそうだ。パイロキネシスは火をつける能力だ。調整できれば体の中の悪い部分を焼いてしまうことができる。サイコキネシスは、体の中の一部を動かして矯正したり、振動させることでマッサージすることができる。磁気や重力を操る能力も経験を重ねると病気と戦うことができる。あのおっさんの能力はトランスポート、物体を瞬時に移動させる。俺とお前を跳ばせたようにな。イメージとコントロールの力次第じゃ、体の中から異物や特定のものを取り出すことができる。お前は、あのおっさんにチップを取り除いてもらったんだな。すごいよ、あのおっさん。あのおっさんは、俺たち奴隷階級の救世主かもしんねえ。何が何でも助け出さなきゃな」
マッチは大きく頷き、嬉しそうにハナビの目をじっと見つめている。
「おい、やだなあ。そんなに尊敬の眼差しで俺を見るなよ。さすがの俺様も照れちゃうだろうが。何で俺がこんなにいろんなことを知ってるか分かるか?分かる訳ないよな」
ハナビは金庫からノートパソコンを取り出して、テーブルに載せた。そのノートパソコンからはコードやパーツが外に出ていた。
「ご主人様たちが使っていたパソコンのジャンクを集めて作ったんだ。パソコンってのは、計算したり情報を探したりしてくれる機械で、インターネットを使うと世界中のパソコンとかにつながって、いろんなことを調べることが出きるんだ。」
マッチの目が輝いている。
「そうだよな。勉強したいよな。なんで、俺たち奴隷階級とご主人様達は同じだったのが、こうなっちゃったんだ。どうしてか知ってるか?」
マッチは首を横に振る。
「じゃあ、そっから教えてやるよ」
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