階段を上がるハナビ。マッチはニクマンに頭を下げてからハナビについて階段を上がる。
ハナビは土足でベッドを踏み荒らしてから、天井の窓を開ける。
「こい、マッチ」
ハナビはマッチを肩車して窓から屋根の上に上げた後、自分も続いて屋根の上に上がった。
「マッチ。生き残っていくためには知恵のほかに知識が必要だ。俺が色々教えてやる。裏口から出ずに、屋根の上になんで上がったか分かるか?煙となんとかじゃねえぞ。いいか、ご主人様たちは俺たちよりはるかに大きい。しかも単純だ。だから、俺たちを探すのに上を見ることはないんだ。ついてこい」
ハナビは下の様子を確認した後、屋根から屋根へと渡って行く。マッチもハナビのまねをしながらついていく。やがて二人は端っこの屋根に到着した。目の前には大通りが広がっている。
「この大通りを渡って、向こう側の奥で降りればもう大丈夫だ」
ハナビはマッチににやりと笑いかける。
「どうやって向こうまで行くと思う?」
ハナビはポケットから袋を出し、その中から二羽の黒い鳥のおもちゃを取り出した。一羽を屋根の一角に取り付け、もう一羽を持って立ち上がる。
「下がってろ」
ハナビは鳥の後ろにある覗き穴から鳥の目を通して大通りの向こう側の屋根の一角をとらえ、鳥の背にあるスイッチを押した。
「行け!」
鳥のおもちゃは本物の鳥のように、狙った屋根の一角まで飛んでいった。
「マッチ、来い」
ハナビは鳥の尾羽の近くを指差した。
「よく見てみな。ほっそい透明な糸が出てるだろ。こいつ、これでもかなり丈夫なんだよ。この上を渡っていくのさ」
今まで感情を隠していたマッチも怯えて首を横に振った。
「しゃあねえな。じゃ、俺がおぶって行ってやるよ。ほら、来な」
ハナビはマッチをおぶると同時に走り出した。空中を駆けるハナビ。その下ではご主人様たちが二人を探していた。ハナビはあっという間に大通りを駆け抜け、屋根の上にマッチを下ろしてガッツポーズをとる。
「どうだ、面白かったろ」
マッチは興奮して目がきらきらしていた。
「そっか、面白かったか。戻すから下がってろ。糸が絡むと大変なことになるから」
ハナビが鳥の背のボタンを押すと、残っていた一羽が飛んで戻ってきた。ハナビは二羽を袋に戻し、ポケットに入れた。
「さ、行こう」
ハナビとマッチは屋根を渡り、やがて消えていった。
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