「科学者って、そういうものらしいぞ。一番速いスパコンを作りたいからスパコンの研究をするのじゃなくて、神の意志を知ることが出来るかもしれないから、そのためのスパコンを作ろうとして、研究する。ただの好奇心でUAHを研究するわけじゃなくて、そこに神の意志を感じるから研究する。科学は神との対話だ」
マッチの目が輝いている。
「この学生には共感しちゃうんだよ。パソコンを手に入れてインターネットにつながったときは、凄い力を得た気になった。何でも調べられる。世界で一番賢くなれるかもしれない。世界最高のコンピュータを手に入れたら、神になれるかもしれない…その時考えたんだよ、神様っているのかなって…神様がいるなら、なんでこんなひどい世界なんだろ…」
マッチは哀しげな目をする。
「こんな世界でも希望を持てるのは、人の力なのか、神の導きなのか…もし、神様がいるのなら、こんな世界を静観している神の意志を知りたい…俺は神にはなれない…近づくこともかなわない…インターネットに答えはない…この学生の時代にUAHは確認されていない。でも、学生は『未確認』ではなく『未解析』という言葉を使った。彼はUAHに出会ったんだ。それは神の意志だったのかもしれない。今、この時代にUAHが次々と現れてきているのも神の意志なのかもしれない。UAHの真実を知ることが、神の意志を知ることにつながるような気がする。彼も同じように考えたのだと思う」
ハナビは笑みを浮かべる。
「話を戻そう。東の大国にとって、スパコンは得意なものだったし、学生の研究が途中であろうと、とっつき易かったんだろうな。それに比べてUAHの研究は素粒子レベルのもので、やたらと数式が出てきて、実用的じゃなかったから、興味を持たなかった。まあ、興味を持ったところで、東の大国の連中には訳の分からない理論だったろうし…。東の大国にもUAHはいたらしいが、ご主人様達は遺伝子レベルで変わっちまったせいか、UAHは生まれなくなった。UAHは俺たち奴隷階級にしかいないんだ。彼らがコントロールできない力、それがUAHの力。理解できない力は恐怖だ。奴等のUAH狩りが始まった。出来るだけ殺さずに捕まえるが、逃すぐらいだったら殺す。捕まえたUAHが協力するようであれば、かなりいい待遇になるけど、協力しないのであれば殺す。人体実験されるという噂もあったけど、奴等は調べ方も分からないから、人体実験なんかしないそうだ」
マッチは俯いて震えている。
「大丈夫だ。お前は俺が守ってやる。あのおっさんも救い出す。その代わり、俺に手を貸せ」
マッチはもの問いたげにハナビを見る。
「この狂った世界を変えてやる。それには、お前たちUAHの力が必要だ。俺がUAHだったらよかったんだけどな。俺じゃ、奴等には勝てない。危険な目には合わせない。約束する。俺に手を貸してくれ」
マッチは哀しげな目をして、ハナビから目をそらす。
「そっか、しょうがねえな。とにかく、お前は俺が守る。あのおっさんもきっと助ける。お前は一人じゃ危なすぎる。身の守り方も教えてやるよ。一人で生きていけるようになったら一人前の男だ。その時に別れよう」
ハナビは大きな欠伸をした。
「今日は疲れた。もう寝よう。お前、ベッドで寝な。俺は、このソファで寝るから。ほら、立ちな」
ハナビは、マッチを立たせるとソファに寝転び、すぐにいびきをかき出す。マッチは床に膝をついて目を閉じて、そんなハナビの背中にしばらく頬を寄せる。幸せそうなマッチの顔。マッチは立ち上がり、ベッドに倒れこむ。お世辞にも綺麗とは言えないベッド。でも、世界一のベッド。明日はどんな日になるのだろうか。ハナビは明日も僕を嫌わないでいてくれるだろうか。
PR